Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

"Less" Andrew Sean Greer

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*四面楚歌る*

どれが次の状況にふさわしいかひとつ選んでみて下さい。

(ア)孤立無援 (イ)五里霧中 (ウ)七転八倒 (エ)臥薪嘗胆

この本は4、5年前に新宿のBooks Kinokuniya Tokyoに行った時に買って、本棚で眠っていた(長い眠り)。ペーパーバックにしてはオシャレな装丁。各章の最初のページに描かれたイラストもかわいい。

表紙に"Brilliantly Funny"とか"Hilarious"とかの単語が並んでいて期待が高まった。

Lessというのは主人公の苗字である。

しばらく前に「Stoner」という小説を読んだが、こういうタイトルの小説って以外と多いのかな?他には思いつかないけど。「アンナ・カレーニナ」とか「デビッド・コッパーフィールド」とかはフルネームだし…「ドラえもん」とか?それもフルネームなのか!?

Lessというのはなんともネガティブな苗字だなと思う。Loss とかLessing とかGrossなんて苗字もあるらしいけど、日本の苗字であまりネガティブなのは思い当たらない。

各章のタイトルも「Less~」となっていて、Lessが文中に使われている場合比較級のlessと混同してしまうこともあり、そこには何らか作者の意図が感じられる。

Lessは中年でゲイで白人でそこそこ売れた作家なのだが、50歳を目前に人生に行き詰まる。というか男に振られ小説は出版社に却下され、机の上に放置していた世界の色々な国の仕事を全て引受けることにする。

現実から逃れるために世界旅行に出かけるのだ。

って、本人は可愛そがってるが、実はそうでもない。世界中に読者がいるようだし、旅のほとんどは招待だから費用はかからないし、高価な洋服を買ったりしてそうお金に困ってる風でもないし、何よりこの人、モテる。失恋して弱ってる割にはふらふらと恋愛しちゃったりするのよね…。

そもそも、失恋したという自覚もあまりないらしい。そして「50になる!」いう感慨に浸る。

まぁまぁかわいい人物なんだけど、ちょっと私は「バカか!?」と思ってしまった。

文中でもLessはinnocentなんだって何度も言われてるけど、innocentっていいことばかりじゃない。時に他人を傷つけてしまったり。careless でmindlessで…Lessはlessでいっぱいの人かと思う。

そう考えると、人間ってみんなlessでいっぱいなのかも。そして自分のlessを数え始めると人は不幸になるのかもという気もする。

もしかするとLessはlessを数えなかった、自覚しなかったから幸せになれたのかな?深読み?

いろんな国を旅した気分になれる。

ニューヨーク、メキシコシティトリノ、ベルリン、モロッコ、インド、だんだん文体にも慣れて楽しくなってきて、旅の最後は京都。ということで、外国人の目から見た日本の場面を読むのを楽しみにしてたんだけど、ちょっとがっかり。まず、2泊3日の短い滞在だったし、主人公の夢と現実が混沌として、京都じゃなくてもいいんじゃないかと思った。それとも、外国人から見たら日本は「不思議の国」なのかな。

それにしても、Lessは雑誌のグルメ取材で京都に行き、会席料理を3度食べるのだが、3度とも「butter bean, mugwort, and sea bream」(いんげん豆、よもぎ、鯛)が出てきて、うんざりさせられる…。何?天ぷらかなんか?とも思うけど、高級懐石を食べたなら、そんなこと絶対にない!

もっと創意工夫が凝らされてるはず。

それに、「桜には早すぎましたね」って日本人達から言われるのに、蓬って…もっと遅くない?季節合わなくないですか?

わかってます。これはフィクション。好きに書かれて結構です…。

でもそんな些末なことが気になって楽しめなかった。

だって、この調子だと、面白いと思って読んだ他の国の情報も…?と疑い始めてしまうのだ。

そして、不信感が増したところで、最後に軽いどんでん返しがあり、アガサ・クリスティの「アクロイド殺人事件」を読み終わった時みたいに「はぁ?」となった。

いいのか。そんなにいいのか?この小説…。

Amazonのレビューを見る。

絶賛派対辛口派4:1ってところかな。

ピューリッツァー賞も受賞してる!

あのピューリッツァー賞受賞作品の錚々たる顔ぶれを見ると怯む。

日本語だったらもっと自信あるけど、英語で読んだから自分の感想に自信が持てない。

もしかして、数年後もう一度読むかもしれません。

その時、もし、英語読解力が向上していて、前言撤回したくなったら、またブログ書きます。

とりあえず、今回の感想はこんな感じで。

次の本、読も!