*素晴らしき哉、文豪!*
有名な小説は、人に「何読んでるの?」と聞かれた時堂々と答えられるのがいい。タイトル名や作家名だけだとしてもみんな知ってるから、そこから話が進むのだ。これがマイナーな小説だとそうはいかない。知らないだろうな〜と思いつつ自信なさげにボソボソと答えてしまい、オマケに答えたあと「?」という顔をされ沈黙が流れて気まずくなる。でも、聞いてくれてほんとありがとう、お気持ちだけはありがたく存じます…と思う。
ヘミングウェイの「移動祝祭日」を読んでから、他の本も読んでみたいと思っていたのだった。特にこの本は彼がパリに住んでいた頃に書いた初の長編で、友達をモデルにして書いたものだからみんなを怒らせてしまい、左岸から右岸に引越したという…。
それに日本語のタイトルは「日はまた昇る」だから、てっきり原題は「The Sun Rises Again」なのかなと思ってたけど、直訳すると「日もまた昇る」ではないのか。alsoという言葉の示唆するところは、太陽の他にも何か昇るものがあるということ?それが何か知りたくて読みました。
Kinokuniya Books Tokyoに行った時、買おうとしたら、同じ「The Sun Also Rises」だけで5、6冊もあり、じっくり吟味して最も字の大きい本を買うことができた。感動。選ぶポイントそこかよ!?と思われるかもしれませんが、そこが最も重要なのです。さすが文豪だなーとうきうきする。
それから半年が流れ、ようやく読むに至る。私の前には長い長い本の行列があるのです。人気ラーメン店並です。回転は遅めです…。
本文に入る前にもう答えを手に入れたというか、2つの文の引用があり、それがタイトルの説明になっていた。
この、小説の前に小難しい引用がある小説ってかっこいい。私も小説を書くことがあったら(ほぼほぼないけど)ぜひ取り入れたいと思う。あと、献辞!「この本は誰々に捧ぐ…」これ、やりたいです。
この本はヘミングウェイの別れた一人目の妻と息子に捧げられています…。もう次の妻いるんだけどね。複雑だよね。離婚した夫に本捧げられてもね…。文豪の妻も大変だ。
ヘミングウェイは4回も結婚している。いろんな国に行ったり、釣りしたり、闘牛見たり…それらのことを全て小説に取り入れる。家族だって友達だってネタにしてしまう。そのくらいの芸術至上主義じゃないと文豪にはなれないのだろうかと思う。
幸せなのかな。それは愚問だ。なんだか「鶴の恩返し」を思い出す。自分の羽で反物を織る。恩返しはしないけど。それとも、ある意味元妻と子供に恩返ししてる?
ヘミングウェイやフィッツジェラルド達、第1次大戦後に活躍した作家達は「ロストジェネレーション」と呼ばれてるんだけど、ここに聖書の引用がある。「One generation passeth away, and another generation cometh; but the earth abideth forever…The sun also ariseth, and the sun goeth down, and hasteth to the place where he arose…」古い英語で読みにくくて恐縮ですが、ヘミングウェイがかっこつけて書いてるから仕方ない…。訳してみると、「一つの世代が去り、次の世代が来る。しかし、地球はあり続ける。日もまた昇り、そして沈み、昇り来た場所へと急ぐ…」
ここからタイトルが取られているって言いたいんだろうね…?どういう意味で?何の説明もないから、のっけから読者を考えさせる。
ヘミングウェイの文章はスッキリシンプルで、できるだけ余計な形容詞などは省いてある。登場人物の感情など説明されていない。読む人が行間を読まねばならない。そこが素晴らしく、難しい。
英語が母国語でない人間が読んでどの程度理解できているかは謎だが、私の大好物の文学的要素であるmetaphorやsymbolismが多用されていて、いろいろ隠された意味を考えながら読むのが楽しかった。
パリに住む1人の女と4人の男がスペインへ闘牛を見に出かける。それはいいんだけど、男の1人はその女性とプラトニックな恋愛関係にあり、2人目はフィアンセ、3人目は過去にその女性と2人で旅行に出かけたことがあり今でも未練たっぷりな様子ある。4人目はただの知り合いらしい。
それで疑問です。行く?そんな4角関係みたいな状態で、旅行に、行く?とまず思った。100人中100人が予想できる。絶対揉め事起きるって!やめた方がいいって!終盤から事態はますます混迷を極める。いや、ちょっと待った!ピピーッ!とホイッスルを鳴らしてイエローカードやレッドカードを出しまくるが、その願いも虚しく、物語の後半で事態はついに5角関係へと発展するのでした。ギャフン!
しかし、ここまで多角化すると、逆になんか爽やかだね。男同士で酒飲みながら、「あの娘は結構面倒見いいとこあるんだよな。」とか言ったりして。あ、そうなの?って感じ。そしてみんなずーっと酒飲んでる。
この女の子も「私ほんとダメな女ね。」とか男子に相談してくるんだけど、ほんと廊下に立っとれ!って思うよ。しかし世の中にはこのような女性は案外いる。その周りの男性もうれし苦しみながら翻弄されているので、ある意味ギブアンドテイクのハッピーエンドかもしれないと思う。ヘミングウェイもきっとこんな女性が好きなんだな。
なんだか辛口発言していますが、こんなこと言ってるといつも「出た!モテない女の僻み!」とか言われるので言わないようにしている。長々と書いといてなんだが。おまけにやたらとエクスクラメーションマークを連発してしまうのであった。
それで、この物語に登場するのは女性は1人だけで、あとは全員男。さすがマッチョです。その中では語り手のJakeがいい。哀しみを背負う優しい物書きなのだ。叶わない恋に苦しみながら、夜ベッドに横になって「It is awfully easy to be hard-boiled about everything in day time, but at night it is another thing.」というところではかっこよくて切なくてキュンときた。ヘミングウェイはハードボイルドの祖なんだった。
でもよく考えると、このJake はヘミングウェイが自分自身をモデルにしていると言われてるから、ちょっとずるいぞ。
結論として、人間生活とはまあ、あれやこれやと大騒ぎしている訳だけれども、茫漠とした時の流れから見るとほんのちっぽけなもんじゃないかとこのタイトルは言っているような気がする。おおらかに生きようではないか、諸君。
なんだか平家物語みたいだな。ひとへに風の前の塵に同じ。だから酒飲むか、みたいな。はは。ほんと、体壊すから。よいこは真似しないでください。
とにかくいろんな意味で楽しめる小説でした。また、ヘミングウェイ読みたいな。
さすが文豪!その一言に尽きる。