Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

"The Fountainhead" Ayn Rand

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この文章はネタバレを含みます。本の内容を知りたくない方は読まないでください。

*フィルターになる*

いつもネタバレは罪悪であると公言している私ですが、今回は禁を破り物語の内容についていろいろ書いてみたいと思います。なぜなら、この本誰も読まないだろうなーと思うから。

まず、680ページある。かなり小さな字で。それに日本では作者の知名度があまりに低い。ストーリーも荒唐無稽なのだが、なんというか唯一無二の得も言えない魅力があるのです。長時間かかって読んだから、誰かに話したい、少し長くなりそうなので興味がなかったら斜め読みしてください。

この本の存在を初めて知ったのは「the perks of being a wall flower」(邦題は「ウォールフラワー」私の8番目のブログをご参照ください)という本の中で主人公に英語の先生が勧めた本のリストからでした。

「Great Gatsby」とか「The Catcher in the Rye」とか有名な本が並ぶ中で、全く聞いた事ないタイトルに興味を持ちました。その先生がこの本を主人公に渡す時こう言うのです。「Be skeptical about this one. It’s a great book. But try to be a filter, not a sponge.」フィルターになる?

Amazonの書評を見るとやけに長い熱心な書評が並んでいます。世の中には「Randian」という熱烈なRandファンがいるらしいことを知りました。「Janeite」で「Heyerite」な私のライバル心に火がついた!訳でもないけど、気になる…。

アメリカの知的な高校生や大学生が読む本だって。

それで、東京の紀伊国屋書店に行った時、たくさんの洋書にテンションが上がり、この本を見つけて(意外と安かった🟰字がミクロに小さい)、これは運命に導かれてると勘違いしたわけです。

さて、読み始めたものの、「果たして最後まで読めるのだろうか…。」とかなり不安になります。作者の前書きは難しすぎて理解できず、でも「理想の男性を描きたかった」ことだけがわかりました。

その不安も束の間、冒頭からすごい。いきなり主人公が全裸で(!)崖の上に立ち、海を見下ろして笑っている…学校を退学になったばかりなのに(理想の男性?)

これは…!読める、読むしかないでしょう!と思ったのでした。

主人公は才能ある建築家なんだけど、一切妥協を許さない。ギリシャ建築とかルネッサンス風とかそういう既存のものを模倣せず純粋にオリジナルな、自分の理想とする建物しか建てない。施工主に妥協を求められても応じず、大きな契約も断ってしまい、仕事も収入もなくなってしまったりします。人付き合いもそんな感じで、無駄なつきあいも笑顔もない。悪気はなく、ただ単に他人に興味が無い。自分の心にのみ誠実、でも不思議と少しずつ仕事も人も理解者を増やしていくのです。

作者の主張は、世の中には創造する人間と模倣し搾取する人間がいる。または自分の成し遂げたいことのために生きる人間と社会的に高く評価されるために生きる人間がいる。人間は自分のために生きるべきで、そうじゃない人生は意味が無い…みたいな感じなんじゃないかな。上手く説明できてるか自信がないけど。

作者はロシア人で子供の頃両親が財産を国に没収されて苦労したそうです。それで大人になるとすぐソ連を飛び出しアメリカに渡って、英語も流暢ではないのに必死で小説を書いたらしい…すごいエネルギー。写真を見ると、強そうな女性です。敵に回したくない。

この本は1949年に出版されているから時代背景もあるのでしょう。全体主義VS個人主義社会主義VS資本主義の要素も感じます。

この思想的ストーリーを軸にロマンスが絡まってくる。それが奇想天外でかなりおもしろいです。っていうか途中までヒロインに全く感情移入出来なかった。

主人公ロークが愛するただ1人の女性、それがヒロインであるドミニクで、この世のものとは思えない絶世の美女。有名建築家の娘でジャーナリスト。これでもか!って言うくらいの設定なのだが、このヒロイン考えてることが全然わからん。

無一文になってしまったロークはドミニクの父親の所有する採石場で肉体労働している時に、たまたま近くの別荘に滞在していて採石場を訪れたドミニクと目が合い見つめ合う…。ドミニクはロークが忘れられず、わざと別荘の暖炉の大理石を破壊し(!)ロークに修理を依頼する。別荘までやって来たロークにいろいろ話しかける。新しい大理石を取り付けにやって来たのがロークではなかったことに腹を立て、翌日道で出会ったロークを引っぱたく。その夜別荘にいきなりやって来たロークにほぼほぼレイプされる(?)。ロークはドミニクの正体を知っていたのだが、ドミニクは彼の名前すら知らず、ロークは仕事の依頼を受けてニューヨークへ黙って帰ってしまう。

二人はニューヨークのパーティで再開し付き合い始めるんだけど、なぜか人目を忍ぶようにつきあう(?)。二人は分かりあってるからほとんど会話もしない。二人は分かりあってるから会話も途中から始まったりする(?)。

ドミニクはロークの建物を批判する記事を書き、ロークにデザインを依頼しそうな施行主を見つけては妨害し、ロークのライバルがその仕事を横取りできるよう協力する(?)。ついにロークが裁判に巻き込まれ、社会的破滅に追い込まれたときには「自分を罰するために」(?)ロークのライバルである好きでもない男と結婚する(???)…。

2~3年後、未だに夫に冷たく接し続けているドミニクは、大富豪から一週間愛人になってくれれば夫に大きな仕事の契約を与えようという提案を「面白そう」という理由で引き受ける(?)。この大富豪がハーレクインロマンスのヒーロータイプで、貧しい家に生まれて一代で大富豪になり、頻繁に愛人を取り替えるが誰も愛さない貴族のような容姿の男で、愛人にするつもりが瞬く間に激しい恋に落ち、ドミニクに結婚を申し込み、ドミニクは同意する(?)。

この部分はなんだかハーレクインチックなので、第4部だけロマンス小説として読むのもありかな?と思います。

こんな感じで物語はえーっ!の連続です。こじらせすぎ。何が起きるのか予想がつかない。この後もいろいろあるのですが、結末をばらすのはあまりに気がひけるので、これ以上知りたい人は読むか映画を見てください。

1949年にハリウッドで映画化されています(邦題は「摩天楼」)アマゾンプライムにあったから見てみたけど、途中で寝てしまう…。作者本人が脚本を書いたにも関わらず「あの映画は最初から最後まで大嫌い」と言ってたらしいです。やっぱり敵に回すと怖い。

この小説をメロドラマにしたらおもしろいかも。平日午後1時半スタート。タイトルは「東京摩天楼~愛と偽りの協奏曲」。音楽は関係ないけど、なんとなく雰囲気で…。主人公ドミニク·フランコン→富野ふらこ、ヒーロー役ハワード·ローク→波戸六三郎、戦後日本の昭和を舞台に繰り広げられる愛憎劇…いかがでしょうか。名前が変?テレビ局の方ご参考ください。

しかしながら、若干疑問はあるものの、読んだ後これだけいろいろ考えさせられるというのはいい小説なのではないでしょうか。強烈で忘れられない。文学界からはほぼ無視されているということです。

翻訳もされています(タイトル「水源」)。こんな長い小説翻訳するの大変だ〜!日本語で読んでみたい方はどうぞ。

体力気力がある時に、他の小説も読んでみたいと思いました。

ここには書ききれないけど、他の登場人物達もくせが強すぎて笑える。どの人も何かの思想を体現したような人物で、特徴があるから覚えやすいのはありがたいけど、現実には存在しそうもありません。ただ、実際には人間誰しも彼らの要素を少しずつ比率を変えてもちあわせているのではないでしょうか。

このたくさんの登場人物達の人生が複雑に絡み合う感じがトルストイの「戦争と平和」を彷彿とさせて、もしかしてこの感じがロシア的なのかと勝手に思いました。「戦争と平和」と「カラマーゾフ」しか読んだことないのにロシア文学を語るか!?と言われそうですが。

結局作者も主人公も自分道を貫いたと言うことなのでしょう。それが私のフィルターを通した結論です。

忌野清志郎も言ってたけど、人の意見を聴くと平凡になる。人の意見に惑わされず自分の心の声に耳をすませていこうと思いました。皆さんも地平の果てまで自分の好きなことを(人道に反することは駄目ですけど)貫いてください。