Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

"The Last Sentence" Tumelo Buthelezi

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*ドアを開けよう*

ドラえもんひみつ道具ランキング第1位はほぼほ「どこでもドア」ってことになっている。経済的、時間的、空間的あらゆる問題を解決してくれるスーパー優れ物なのだ。

人間の想像出来るものは実現できるって説があるが(ロボットとか)、タイムマシンやどこでもドアが完成する日は来るのか?最近のChatGPTとか見てるとそういう日も遠くないかもしれないと思わないではない。しかし、もし実現したとしても、実用化は許されるか疑問だ。だって、世界がえらいこっちゃになるじゃないですか!犯罪だってやり放題だし…。もしかして我々の知らないところでもう既に完成しているのかも。そしてそれはトップシークレットとして闇に葬られるのだ。

よいこのみんなはとっくに気づいてるかもしれないけど、どこでもドアは必要ありません。っていうか遠い昔からこの世にそれは存在しているのだよ。たったらーん♪(ここ、ドラえもんひみつ道具を4次元ポケットから出す時の音でお願いします)それは何を隠そう本なのであります。「はぁ?何言ってんだ?」と何だかシラ〜っとしてしまった方は読むのを止めてしまいましょう。

本は読む人を世界のあらゆる場所に連れて行ってくれる。世界に存在しない場所にも連れて行ってくれる。未来にも過去にも連れて行ってくれる。そして、どこでもドアにもない機能すら持っている。本を開いた瞬間から私達は時空を飛び越え誰にだってなれるのだ。電車の中にいても病院の待合室にいても寝ていても立っていても、大人も子供も老人も若者も関係ない。人間の頭の中には広大な宇宙が広がっているのですよ…。

それで今回私はKindleの自動扉を空けて何処へ参ったかと申しますれば、遥かなる国南アフリカへ馳せ参じました。つまり、南アフリカ人のオンライン英会話の先生が紹介してくれたある本を読んだわけです。この本のすごいところは南アフリカ人によって英語で書かれた本だという点です。なぜなら日本では全く情報が手に入らない未知の作家の書いた未知の本だから。非常に珍しい。もしかしてこの本を読んだ日本人は私だけかも!?多くても5人未満なのではないかと考えます。もし読んだ方いらっしゃったらご一報ください…。

なんか1ページ1行目から人が死んだりしてすごい。その人が幽霊になって復讐しようとする。魔術的な薬とかドラッグとか殺人とか売春婦とか盛りだくさんに出てくるが、別に怖くはない。感情的ではなくドライに書かれているからかな。この作者の初めての小説ということで、構造も凝っていて、小説の中にドラマの脚本がふたつも盛り込まれていた。

主人公の名前がBandile Ndalaっていうんだけど、アフリカの言葉って「ん」で始まる単語が多いように思う。「ん」で始まる言葉があるとしりとりしても負けなくて永遠に続けることができるな。でも音じゃなくて文字でしりとりする場合は「ん」じゃなくてもnやmで始まればいいわけか…。アフリカには2000(!)以上の言葉があるという。南アフリカだけでも34の言葉が話されていて11の公用語があるそうです。人類の祖先はアフリカから来たらしい…。彼らは何語を話していたのでしょう。

名作というわけじゃないけど、十分楽しめました。地名が出てきて地図を見たり。オレンジ川っていう川の写真がきれいだった….。そして、ところどころ折り混ぜられるズールー語の数々…Googleで調べてもわからず、ノート4ページ分の単語を先生に教えて貰う。今どきなかなかGoogleさんに聞いてもわからない事などないのではないか。カラスに聞いてもわからない。Googleに聞いてもわからない。ワンワンわわ〜んとなった私はズールー語の辞書を買うことまで真剣に考えましたが、Kindleにはろくな辞書がなく、辞書アプリもいいものが見つからず、紙の辞書は高くて届くのに時間がかかりそう…という窮地に陥ったのであった。なんだかデジタル社会に勝利?した気分。

アルゴリズムも私の検索履歴を分析してさぞかし困惑したであろうと思うと少しうれしい。人間はコンピュータの理解を越える複雑な生き物なんだぞ〜と信じたい今日この頃です。

「書を捨てよ。街へ出よう。」って言った人がいたけど、書物の中にも街がある。飛行機も新幹線も旅費もスーツケースもいらないから、表紙の扉を開けて出かけてみませんか?