Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

"Normal People" Sally Rooney

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*彼らがそれを読む理由*

マーマレードを作った。

トーストにバターとマーマレード

甘くて苦い。苦くて甘い。おいしくてくせになる。

そういうことなんだろうな、と思う。

そもそも苦味とか酸味とか不味いとかいう味覚があるのはなぜなのか。体に毒なものを食べないようにするためらしい。ということは本来美味しいと感じるべきじゃないのかもしれない。

アガサ・クリスティの「ポケットにライ麦を」という小説では、マーマレードに入れられた毒に気づかず食べた社長が死んでた…みんな、気をつけて!

別にマーマレードに喧嘩を売りたい訳じゃなくて、苦しみとは時に甘美なのではないかという話をしたいのであります。

この本は図書館で借りて読んだ。アイルランドのお話。とってもとっても人気がある。最近BBCでドラマ化されてAmazonプライムなどで見ることが出来ます。

どうしてそんなに人気なのか?それが知りたくて読みました。

わかる。1ページ目から引き込まれて読んだ。普通本を読む時は半分くらいまで物語の世界に入り込めなくて時間がかかったりするけど、ノンストップです…。 読んでいる間ずーっと甘く切なく苦い気持ちを引きずっていた。いささか現実生活が上の空みたいな感じで疎かになる。子供が受験!とかのときには読まない方がいいかもです。わは。

高校生の頃に出会った男女がお互いに唯一無二の存在と感じながら、いろいろな理由からすれ違い誤解し合い傷つけあう。最後のさいごまでわわわとやきもする266ページ。同時に会話などかなりキュンとする場面もあります。たぶん読者はほぼ女性かな。chick lit と言えるかもしれないけどもっと文学的な何かがあるような。サガンの小説とか好きな人は好きかと思う。

果たしてこれだけ読者を翻弄しておいてこの終わり方でよいのかという気がしないでもないが、ハーレクインロマンスじゃないのよ。読者におもねらない、それが文学。谷崎潤一郎を見よ!もしくはフランス映画のような肩透かしを喰らう。

この主人公達、自分はどうしてみんなと同じように「普通」に生きれないのかと不安に思っている。他人の心の中は覗けないからわからないけど、みんなそうなんじゃないかな?若い時は特に。互いに絶対的な誰かを見つけた時、このままで大丈夫なんだと思えた時に「普通だ」って自信が持てるってことかな…。

みんな誰かを探している。恋人とか友達とか。絶対的な誰かが存在するっていうのはみんなが信じたい神話のようなものかもしれないけど。世界は沢山の人で溢れている訳だし。かと言って誰でもいいって訳でもなくて。この人は好きでこの人は好きじゃないとか、話が合うとか合わないとか、人と人との相性って何なんでしょうか…答えのない疑問に思いを馳せる今日この頃です。

今朝起きたら鶯が鳴く練習をしてました。春です。分かり合える誰か(?)をきっと彼も探しているのでしょう。