Bookeater's Journal

洋書の読書感想文

"The Giraffe and The Pelly and Me" Roald Dahl

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*悲しみのない世界*

「読書が趣味」とか人に言うと「どんな本読むの?」と聞かれるので「悲しい本と怖い本以外ならなんでも読みます」と答えることにしている。

だけど、厳密に「全く悲しくない本」というのは、ほぼほぼ存在しないと言っていいと思う。

どんなハッピーエンドの物語だって、起承転結の「転」の位置辺りに、何らかのトラブルや悲しいエピソードを孕んでいるのだ。それによって、結末の「めでたしめでたし」感が引き立つし、そもそもそういう波乱がなければ、全ての小説は100ページくらいで終わっていまうに違いない。

だが、しかし、ここにあったのです!何もかもうまくいくハッピーな世界が!

ブックハンティングをしに図書館へ。ロアルド・ダールだからとりあえず掴んで借りてきました。

薄くて絵が沢山だからすらすら読めて気持ちいい。あっという間に読了です。

全然嫌なことが起こらない。全てが良い方向へと進んでいく。ずーっと楽しくてにこにこする。

やはり73ページしかもたなかった長さだけど。

きりんとペリカンと猿と少年が窓掃除の仕事を始める。きりんは背が高いから梯子になって、ペリカンはくちばしに水をためてバケツ役をするのです。ほんと、天才だなーと思います。

家にあるロアルド・ダールはみんなぼろぼろだ。子供たちが何度も繰り返し読んでいたから。

子供だって楽じゃない。いろいろ嫌なこともあるだろう。ひとたび表紙を開けば、楽しくて愉快なことばかりのこんな本がたくさんあっていいと思う。

本を読んでいる時くらい何も考えず幸せでいていいのではないでしょうか。

数ヶ月前、ロアルド・ダールの出版社が、本の中の「不適切」な表現を変更すると発表して大騒ぎになっていた。本人は故人だから何も発言できない訳だが、あまりにも反対する人が多かったので取り止めになったらしい。

それも、「アッホ夫婦」(この訳も思えば「不適切」かもしれない…)の奥さんが「fat」と表現されているところを「enormous」に換えるとかそういう話が例として挙げられていた。う〜ん、それじゃ「enormous」は適切かって話だ。

それに、文章の中で言葉を換えるとリズムが崩れてしまう。言葉遊びも意味を成さなくなる。

「子供に悪影響がある」って言ってたけど。

どうなのかな。

でも、議論するのはいいことだろう。出版社も世間の意見に耳を傾けて中止にしたのはすごいと思う。

ロアルド・ダール本人にしても、生前問題発言があったらしいけど、だからといって本までが悪い訳ではないのではないか…。

正しさをぎゅうぎゅう押し付けるのはよくない。

文学にパトロールは要らない。